より深く学ぶために

御本尊 大辯才天女尊

聖典「リグ・ヴエーダ」について

信者のみなさまの信仰の糧に、またおみちびきの一助にもと願い、私たち辯天宗の信者が御本尊として尊崇する「大辯才天女尊」のお話をさせて頂きます。
お話の内容は大きく二つに分かれます。はじめに、一般論として、いわゆる辯天さまとはどんな神さまなのか、どうしてその信仰が始まってきたのかについて概観し、そののち本論として「大辯才天女尊」についてのお話をすることにいたします。

 

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インド最古の宗教文献で、バラモン教の根本聖典の総称である『ヴェーダ』のうち、『リグ・ヴェーダ』は最も古く、重要な位置を占めています。高校の世界史の教料書にもその名が見えるこの文献は、アーリア人が初めてインドに侵入したとき残した第一級の歴史的遺産として名が知られていて、ここには、さまざまな神への讃歌1028編が収録されています。
辯天さまの信仰は、アーリア人がこの『リグ・ヴェーダ』のなかで賛美された女神「サラスヴァティー」にその源流を見るのです。私たちがお唱えする御真言「おんそらそばていえいそわか」のうち「そらそばていえい」にあたる「サラスヴァティー」。
この「サラスヴァティー」とは、どういう性格の神だとされているのでしょう。またどういう理由で信仰され始めたのでしょう。信仰されるには、されるだけの理由があったはずです。
これらをお話しするにはまず、「リグ・ヴェーダ」がどのようにして作られたのか、その歴史的背景をご理解いただかねばなりません。そしていつの時代のインドにあっても、その文化の形成に一番主導的な地位を占めてきたのがアーリア人という民族であったことも記憶に留め置いてください。彼らのインド侵入は今から3500年も前のことでした。そこで、しばらくは太古の昔にさかのぼって、はるかなユーラシア大陸に思いを馳せてみましょう。

 

◇ アーリア人の侵攻
アーリア人の原住地、つまりふる里はいまだに不明で定説はありません。一般にはカフカズ山脈の北方(カスピ海と黒海に挟まれた地域)であったといわれています。彼らは家畜の群れを引き連れて、こちらの草原からあちらの草原へと遊牧する生活を送っていたのですが、時代の経過とともに一定地域の草原を出て、他の地方に向かって民族大移動を開始します。それは“ 水” を求める旅でもありました。
このうち、西に向かった部族はヨーロッパに定住してヨーロッパの諸民族、すなわちゲルマン人、イタリア人、ギリシャ人などとなりました。また東方に向かって移住した部族の一部が、5000メートル級の山々が連なるヒンズークシ山脈を越えてアフガニスタンからインドの西北部に入り、インダス河上流のパンジャーブ( 五河)地方を占拠していきました。彼らをインド・アーリア人と呼びます。
この侵入はだいたい紀元前1500年から1200年頃にかけ、波状的になされたと推定されます。
彼らの侵入以前のインドには、ドラヴィダ人やムンダ人といったいくつかの民族がそれぞれの文化を築いていました。この代表がインダス文明だったのですが、アーリア人は圧倒的な武器と戦術をもってこれを征服しました。こうして、先住民は人口ははるかに多かったにもかかわらず、まったくアーリア人の支配下に隷属し、社会最下の隷民階級を構成することになったのでした。ここに「カースト制」と呼ばれる体制の萌芽がみられ、以後これが維持されることになります。

 

◇ 4 つのヴェーダ
当時のアーリア人は非常に宗教的な民族でした。彼らは各家庭の祭壇に供物を捧げ、大規模な祭祀をたびたび行っていたようです。その都度彼らは神々に讃歌を捧げ、神々を喜ばし、それによって現実の生活の上での幸福を得ようとしました。
この神々の大部分は自然現象をはじめとした抽象的概念などを神格化したもので、天・空・地の三界に住むと信じられていました。たとえば、太陽を神格化したスールヤという神は天界に属し、風を神格化したヴァーユという神は空界に、火の神格化であるアグニという神は地界に属するといった具合です。ほかにも雨を降らせる神、地面を司どる神をはじめ、概念として、契約を守護する神、信念を支配する神、激情を司る神などが、広く祈りの対象となっていました。
こんな神々に対する儀式が複雑化すると、祭祀に関係のある語句や文章が集められて、「聖典」が編纂されていきます。神々に対する讃歌を集成した「リグ・ヴェーダ」、祭祀にあたって詠唱する詠歌を集成した「サーマ・ヴェーダ」、祭詞を集成した「ヤジュル・ヴェーダ」、呪法句を集めた「アタルヴァ・ヴェーダ」の四つのヴェーダがそれです。なかでも「リグ・ヴェーダ」がもっとも古く、かつ重要視され、インドに侵入したアーリア人の宗教、文化、生活を今に伝える根本資料となっています。

 

◇ 3000年の変遷経て
「ヴェーダ」文献にみるアーリア人の宗教は、一般に「バラモン教」として知られています。
「ヒンズー教」というのは、ふつうこのバラモン教を土台とし、アーリア的要素とインドの土着的要素とが複雑に融合して形成された宗教ですが、「リグ・ヴェーダ」はさまざまな変遷を経て、3000年後の今日に至るまで主として暗唱によって伝えられました。現代もヒンズー教の人々が最も重んじ、生活や信仰の中に生かしているのです。